なぜイギリスの肩は構築的で、イタリアの肩は曲線的なのか?
第1章:あなたならどうする?
海外のビジネスミーティングに出席する予定のあなた。英国製のガッチリしたショルダーラインか、それとも南イタリア製の軽やかな肩か、どちらのスーツを選ぶべきか迷う朝。


第2章:歴史や文化から読み解く
構築的なショルダーのルーツは、イギリス王室や貴族階級の“外見的権威”への志向にあります。18世紀の宮廷では、男性がかつらで頭部を大きく見せ、ふくらはぎに詰め物をして美脚に見せていたように、「威厳=視覚的ボリューム」が常識でした。
この伝統は20世紀のサヴィル・ロウに引き継がれ、内芯やパッドを駆使して“力”と“支配”を肩で表現するテーラリングに昇華されました。また一説には、ブリティッシュショルダーの原型には、中世から近世にかけての英国軍騎士の鎧(ショルダーアーマー)も影響しているとされます。防御と誇示を兼ね備えたプロテクターは、視覚的にも上半身を強調する構造を持ち、それがスーツのショルダー構造に転用された可能性があるのです。
一方、イタリアでは“動き”と“柔軟性”が求められ、ナポリ仕立てを中心に芯地を省き、自然な肩線=スプロヴァッチャート(spalla camicia)へと進化しました。つまり、英国=権威の誇示、イタリア=身体との調和。その背景には、天候、都市構造、政治制度までもが関わっているのです。


第3章:現代の思想
現代においては、英国式と伊式の違いは単なる地域性ではなく、仕事観や人間観を反映した選択肢と見なされています。例えば、金融や法律といった“信頼”を重視する業種では、構築的なショルダーが今も支持されています。一方、広告やファッション業界では、身体に沿った自然な肩が“創造性”や“開放性”を象徴します。
またZ世代やミレニアル層の間では、あえてクラシックなブリティッシュスタイルを再評価する動きも。威厳を装うのではなく、“構築美そのものをアートとして楽しむ”思想に転化してきています。


- 中野香織『スーツの文化史』文藝春秋
- Bernhard Roetzel “Gentleman: A Timeless Fashion” Konemann
- “Tailored Identity: Construction vs. Comfort,” Journal of Dress Studies, 2021 - 『Knights & Fashion』British Museum Textile Archives
結論・まとめ
構築的な肩と曲線的な肩。その違いは、単なるスタイルではなく「人の思想」と「社会の記憶」に根ざしています。あなたの肩が語るのは、どんな物語でしょうか?