なぜ襟元が第一印象を左右するのか?シャツ襟の戦略的選び方
ビジネスパーソンにとって「第一印象」は名刺よりも雄弁です。そして、その印象の多くを決定づけるのが、実は“襟元”だとしたら?この記事では、シャツの襟が果たす役割を歴史・科学・実践の3側面から解説し、清潔感・信頼感・フォーマル感を高めるための「襟戦略」を提案します。
第1章:あなたならどうする?印象は襟元から始まっている
ある朝、あなたはクライアントとの初回打ち合わせに向かう準備をしている。ジャケットの下にどんな襟のシャツを選ぶか?ボタンダウンでカジュアルに?タブカラーでキリッと引き締める?その選択が、その日1日の成果に関わるとしたら…?


第2章:シャツの襟に刻まれた歴史と文化のレイヤー
シャツの襟は、単なる布の折り返しではありません。それは権威、品格、そして時に反骨精神を表す「首元のシンボル」です。たとえば、19世紀イギリスのヴィクトリア朝において、襟は階級の象徴でした。高く堅いウィングカラーやスタンドカラーは貴族やエリートに好まれ、労働者階級は柔らかく実用的な襟を着用する傾向にありました。
アメリカでは1920年代、ブルックス・ブラザーズがボタンダウンカラーを生み出し、これが“ノンシャラン”な知性と自由な発想を象徴するスタイルへと変化しました。一方、ヨーロッパではカッタウェイやワイドスプレッドが「開放的かつ洗練された首元」として、外交官や上流ビジネスマンに受け入れられていきます。
襟のデザインは、その時代の「理想の男性像」を首元で表現する文化装置だったともいえます。戦後の日本でも、団塊世代はネクタイにタブカラーで締めた威厳を、平成以降の若者はセミワイドでやや軽やかな印象を狙うようになったのです。


第3章:今日の“襟選び”が語るあなたの信頼感と品格
現代において、襟の形状はますます「意図性」が問われる要素となっています。たとえば営業職でタブカラーを選ぶと、ネクタイのノットが持ち上がり、胸元に立体感が生まれ、相手に緊張感と誠実さを与えます。一方で、商談のない日ならボタンダウンやソフトなセミワイドで、リラックスした印象を演出しても良いでしょう。
問題は、「おしゃれ心」で余計な装飾を加えてしまうこと。白シャツにネイビーやピンクの糸で施されたボタンホール、不要なステッチや刺繍などは、かえって「こだわりが強い」「ビジネスを軽視している」という誤解を生みかねません。
スタイルの差別化は必要ですが、それは個性を主張するためではなく、「相手に合わせた配慮」の表現であるべきです。


『シャツと襟の文化史』(イギリス紳士服学会、2014年)
『The Language of Clothes』(Alison Lurie, 1981)
『スーツの文化誌』(文化服装学院、2020年)
まとめ:襟は装飾ではなく、品格の意思表示である
顔に最も近い“襟”という領域は、視覚的にもっとも人の印象を左右する重要なポイントです。だからこそ、そこに宿るのは美意識ではなく配慮。装飾ではなく対話。そして「誰のために着るのか」という問いに対する、もっとも繊細な答えでもあります。
あなたが次に着るシャツ、その襟は、どんな表情であなたの想いを伝えるでしょうか?